「エホバそのいつくしみたもうものにねむりをあたえたもう」。睡眠はたしかにこの世に於ける大いなる恩恵の一つである。傷つきて物狂おしき心、または疲れてサタンの誘いに敗れ易き心などが、いかばかり睡眠によって癒されるか。我らがなお肉体を以て生きるかぎり、「安きねむり」の恩恵に与からずしては堪えられない。

 然るに睡眠は時として我等から奪われるのである。眠られぬ夜になやむものは少なくない。しかして不眠の苦痛は必ずしも侮りがたい。

 しかしながら睡眠がそうであるように、不眠もまた恩恵ではなかろうか。私は信ずる、眠り得るの恩恵にまさる眠り得ざるの恩恵があると。神は或る時殊更ことさらにそのいつくしみたもう者のねむりを奪いたもう。神を愛する者のためには凡ての事相働きて益をなすのである。不眠もまた必ず我らのために益をなすのである。我らは眠られざるがために、眠りしならば得なかったであろうところの善き経験をもつことが出来る。

 その主なるものは祈りである。夜は祈りに善き時である。更けたけてあたり音なき時、この世の刺撃から離れて床の上に身を伸ばしいる時、その時われらは静かに過去の恩恵をおもい、自分のみじめさをおもい、永遠をおもい神をおもうに適する。

夜はわが心われを教う。(詩一六の七)
夜はその(エホバの)歌われと共にあり、この歌はわがいのちの神にささぐる祈りなり。(四二の八)


 この故に預言者は悩みのどん底にある者に勧めていった。

なんじ夜の初更しょこうに起きいでて呼びさけべ、主の御前になんじの心を水のごとく注げ。(哀歌二の一九)


 私もまた眠られぬ夜の兄弟姉妹たちにすすめたい、「いのりたまえ」と。必ずしも身を起こすには及ばない、床上臥しながらにして結構である。臥しながら、その善き機会に、自分の心のいと深きところを飾らずつくろわずありのままに主の御前に注ぎいだせ。いかばかり乱れたる言葉でもよい。ただ思うがままに憚らず訴えよ求めよ。然らば常には待ちあぐむ時間の進行も、その速やかなるを怪しむであろう。一時うつを聞きしは今しがたとばかり思う間に早や二時を聞きまた三時を聞くであろう。しかして心はややに和らぎうるおい、何となく大いなる手に抱かるるを覚えるであろう。恐らく夜の明くるに先だちて、暫しの安きねむりはつつむがごとくに臨みきたるであろう。

われ床にありて汝をおもい出で、夜のくるままになんじを深く思わん時、わがたましいはずいあぶらとにてもてなさるるごとく飽くことをえ、わが口はよろこびの唇をもてなんじをめたたえん。(詩六三の五、六)


 人が平生祈りのために用いる時は余りに少ない。雑談のため、娯楽のため、新聞雑誌の閲覧のためには惜しまない時をも、神との楽しき会話のためには之を惜しむ。いかばかりの欠陥であろうか。この欠陥を補わんがために、神は最も適わしき不眠の時を与えたもうのであるかも知れない。我らはいたずらに眠られざるを思いわずらうをやめよう、しかしてこの善き時を天の父と心ゆくばかり語らんがために用いよう。苦しき不眠の時を化してしずけき祈りの甘美なる時となそう。少しく眠りて多く祈るは、多く眠りて少しく祈るよりも勝ること幾段であるかを知らない。

〔第六二号、一九二五年八月〕


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